朝日新聞『ヘリゲルに再び脚光』 (投稿11件)[1〜11]


1:だめ学生(もう院生) ◆zPJ1SiMQさん
2月6日の朝日新聞夕刊文化面に、「『弓と禅』で知られる独哲学者 ヘリゲルに再び脚光」との記事がありました。(インターネットでは閲覧できません)
有料記事ですので、一部だけご紹介します。

『弓と禅』は昨年末に『無我と無私』として新訳が刊行された。『国家の品格』の藤原正彦氏が監修、妻の美子氏が英語版から翻訳。
しかし「ヘリゲル神話」は検証の結果崩れてきているそうで、『禅という日本丸』著者山田奨治氏は、ヘリゲルの主張の核心の「弓を射るのは自我を超えた「それ」だ」というのは誤訳で、射をほめる「それです」という意味だったとする。(紹介終)

『無我と無私』、私は読んでませんが、アマゾンのレビュー(”訳者あとがきが間違いだらけ”)によれば、訳者らはヘリゲルと原書、弓道に関して基本的に理解が足りないそうです。『国家の品格』と同じ類の本なのでしょうか。
現在でも弓界へのヘリゲルの影響力はそれなりにあるかと思いますが、脚光を浴びたのを機会に、弓界で彼と著書を再検討しようという機運が盛り上がれば良いかと思います。

私としては、以前に阿波師と縁の深い道場でお世話になっていたので、ヘリゲルにも興味を持ってはいるのですが、記事で山田氏が「阿波は弓術界では異端で」と述べているのに同感で、ヘリゲルの思想も特異だと思っているので(否定しているわけではありません)、彼の「神秘化」とは距離を置くべきだと考えています。記事でも触れていますが、あくまで異文化の身体運動をどう捉えて記述しようとしたか、という点で見るべきかと思います。

2:杣人さん
 確かに,訳者のあとがきは,書誌的に間違いだらけですね.自分が訳した原書の由来をまったく誤解していますし,阿波研造の没年も誤っています.たぶん,ヘリゲルのことも阿波研造のことも,よく知らないままに訳したのでしょう.

3:通行人さん
 阿波研造範士の没年を10年早く誤っている身近な例はWikipediaの記載なのですが,まさかこれを検索した程度の知識であとがきを書いたんですかね.

 話題性を持たせるためでしょうが,有名人の夫を監修者にもってくるというのは,決して品格があるとは言えない.
 

4:通行人さん
 あとがきだけではなく、本文も疑問あり。巻藁までの距離が10歩と書いてあったり、射位から的までの距離が18メートルと書いてあったりする。普通の巻藁までの距離はせいぜい3歩だろう。10歩も離れていては怖い。よほど大きな巻藁だったのだろうか。
 

5:杣人さん
 ヘリゲル博士が哲学者として注目されなくなったのは,ナチスへの協力者だったことが大きな原因ではないでしょうか.朝日新聞の記事は,そのことを巧妙に避けています.
 ウィキペデイアの利用は,怖いですね.阿波研造範士の没年も誤っていますし,ヘリゲル博士の記述も誤っています.ウィキペデイアでは,ヘリゲル博士はナチスと対立して迫害され,苦難の日々を過ごしたという内容になっています.しかし,実際にはナチスの党員だったし,そのことによって大学の学長にまで出世しています.本当に苦難の日々が始まったのは,ナチスによる支配が崩壊し,その協力者への追求が始まってからだったかもしれません.ナチス協力者であってもハイデガーのように戦後復活した哲学者もいます.しかし,ハイデガーの思想とナチスとの関係に対して批判が絶えないのは周知のとおり.
 「ヘリゲルに再び脚光」をあてるとなると,この問題を避けて通れなくなります.日本では,博士のナチス協力のことは,昔はひそひそ話程度でしたが,山田奨治さんの詳細な研究が出てからは広く知られつつあります.
 

6:だめ学生(もう院生) ◆zPJ1SiMQさん
そもそも英語版からの重訳という時点で、ヘリゲルの真意に忠実に訳すという姿勢ではないと考えざるを得ないようですね。英語訳がどのようなレベルかも分かりませんし。
”感銘を受ける本”を作りたい著者らがたまたま題材として選んだだけのようですね。

ところで皆さん、wikipediaに間違いを見つけたらぜひ直しましょうよ。
弓道関係記事は係わる人が少ないようで間違い、偏りがまま見られますから…

7:通りすがりさん
 数字だけでなく、本文の誤りもかなりありそうです。行射を神楽舞にたとえて阿波範士が批評した部分で「舞手と舞手が一体となる」と書いてありますが、文脈から考えて「舞と舞手」でなければ理解できません。これはひどいかも。

8:Yさん
 独語−英語−日本語という重訳の過程でおもしろい間違いがあります。「無我と無私」(P.92)に的までの距離が18メートルと書いてあります。最初は「28」の誤植かと思ったのですが,これは英訳の段階での間違いを正確に和訳した結果の間違いでした。つまり,独語の原書の"60 Metern"を英訳で"sixty feet"と誤り,日本語では60X30cmで「十八メートル」と訳してしまったというわけです。訳者が優秀な方でも,重訳ではこのような誤訳の危険性を抱えています。
 (最初にヘリゲルが的前までの距離を60mと書いたのは,勘違いか?)

9:Yさん
>「舞手と舞手が一体となる」
>「舞と舞手」でなければ理解できません。これはひどいかも。

 御指摘のとおり。中高生でもしないようなひどい誤訳です。該当する英文は次のとおり。

... dance and dancer are one and the same ...

10:sainomiさん
私も,「弓と禅」におけるオイゲン博士の弓と禅にたいする解釈に対して,もっと多角的な批評がないかなと思っていました.

(自分が,原書を読むだけでは理解できないので,誰かわかりやすく解説してくれないかなという他力本願的発想です.)

『無我と無私』

ご紹介ありがとうございます.
今度,購入してみようと思います.
それにしても,間違いが多いとなると,訂正された版以降にしようかなあ.
(増刷されなかったりして)

えーと,「弓と禅」に関する論文を一つ紹介します.
大分県立芸術文化短期大学研究紀要において,
上野正二教授が

弓と禅 : ヘリゲル『弓と禅』の批判的研究

という論文を発表されてます.
CiNii(NII論文情報ナビゲータ)にて,無料一般公開されています.

11:Y  さん
 アウグスティヌスですか.弓道関係書籍の書評が多い,ある名前を思い出しました.いつも的確な批評をされるので,参考にさせていただいています.


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